Trick Arch

ヒノカケラを中心に語っていました。他にも色々。

セラフィックブルーを終えて


超名作と名高いフリーRPGセラフィックブルーDC版クリア。
言われてるだけあって名作だった。ネタバレ全開で以下雑感。

 

■伏線回収
序盤から散りばめられていた伏線を回収しきったのは素晴らしい。
また、それらを自然にストーリー進行に混ぜ込む手腕。相当の構成力だと思う。
確かに序盤は思わせぶりなセリフやキーワードが飛び交って意味不明だが、後半に全てが無駄なく明かされる演出はマジで凄い。ここまでしっかり整合性の取れたシナリオはそうそう無い。
これが2004年に配布されていたのは正直信じられない。ある種オーパーツと言っても過言ではないくらい。

ただ、怒涛の伏線回収も考えようによっちゃ問題でもある。
ぶっちゃけ一気に後半に持ってきすぎだわこれ。前半で投げ出す人の気持ちもよく分かる。
例えるならばこれは、大人気のラーメン店に2時間並んで食べたのと同じ事だ。そんだけ待ってりゃカップ麺食っても美味く感じるわアホ、とも言える。
全てのピースがハマったカタルシスは当然あるだろう。だが、完成した絵は本当に美しかったのかというと疑問はある。

■ディクショナリー
年表、事件、人物、用語などが一覧できるこのシステム。これがまた実にニクい。
難解なキーワードや事件、人物などが全てここで見ることができる。「わかんねえな?」を速やかに解決してくれるこのシステムがまた嬉しい。
リアルタイム(ストーリー進行で一段落ついたら)更新されるので、人物の生死や状況などもすぐわかる。今となっては多数のゲームに実装されているが、2000年代にこれをRPGに実装したのはマジで英断。

ただまぁ、これが無いと困るからつけてるのも否めない。
個人的に思ったが、セラフィックブルーのシナリオはそう複雑ではない。複雑なのは設定だの事件だのキーワードだのといった前提条件だと思う。それが理解されなかったり忘れられちゃ困るからこれをつけたんじゃないかなって。

■戦闘システム
RPGツクール2000なんてたかが知れてると思っていたが、それを感じさせないシステム。
作者がわざわざ書いて作ったらしい。フリーのRPGツクールでよくもここまでやったもんだと尊敬すら覚える。
バランスは総合してみれば良い。ザコ戦でも手を抜けば全滅するかもしれないのはちょっとキツイかもしれないが、敵データを見て戦略をきっちりねって戦えば何とかなるのでやりがいは十分。

■ダンジョンの長さ
相当に長い。
ラスダンなんか新手の苦行かと思えるレベル。
これに加えて一つ一つが全力(そうしないと結果的に損をする)に近いザコ戦が合わさるのだから勘弁して欲しい。
改造版だとその辺が色々と融通利くようだが、二週目をやる場合は迷うことなく改造版でやったほうがいいだろう。正直、出たものに対する改造Verの配布なんて不遜じゃねーのって思いもしたが、改造する人の気持ちもわかる。プレイ時間が長いことでも有名だが、その中にはこれも含まれてる。

■漢字語
軽く調べるとこういう扱いをされている各種文言。
慣れれば「これじゃないとセラフィックブルーではない」というスルメ要素らしいが、個人的には無駄。
まず、何のためにこんな可読性の悪いテキストにしたのかが意味不明。「心算」はともかく「呉れ」までやる?理由あってやってるならともかく、クリアした今でもただのフレーバー…フレーバーとしても始末が悪いとしか思えなかった。別にこんな事しなくても格調高くも壮大にもならねーよ。むしろそうしたいならもっと別の所でやってくれ。

■言い回し
読んでいて感心できる言い回しが何一つ存在しなかったのがヤバい。
これはセリフ自体が断片的なものや詩的表現が多すぎるのもあるのだが、それでも読んでいてかったるいとしか言えなかった。端的に言えば洒落臭い。
なにせ大体の言い回しに知性とユーモアが介在している様子が見られないせいで、本当に見せかけだけのハリボテトークと化している。こんなもんが小粋ならJOJOBLEACHなんて全ページが全米震撼の小粋さとスタイリッシュさに満ち溢れてるわ。

これがほぼ全キャラに適用されるのだから読んでいて苦痛。このせいでキャラの個性が薄れてるレベルで酷く、誰を見てもどこを見てもダサい地獄絵図が完成されている。
「そこでそんな事言う?そんな喋りする必要ある?今どういう状況かわかってる?」必要性の感じられない迂遠で衒学的なことしか喋らないのはセンス以前の問題。
極端なことを言ってしまえば会話をしていない。
相手の台詞に対する切り返しも「このかっこいいセリフを会話の前後を考えずに言ってやろう」感が凄まじく、相手が例えを出したらその例えに乗ってやって皮肉るみたいな会話が存在しない。ボケとツッコミを知らないんだろうなというか。

ちなみに、セラフィックブルーの名言に…
「臨場感を凌駕してリアルに於いて反映実現される、有質量の全ての結果」
というのがあるが、これの与える印象がセラフィックブルーの8割と言ってもいいかもしれない。
要約すれば前後も踏まえて、「ゲームなんて現実に比べたら目じゃねえぜ!」「事実は小説よりも奇なり」に当たるのだろうが、それをこんな言い回しにして何になるの感が凄い。深刻なボキャブラリー不足とユーモア不足が襲いかかってきて本当にキツい。
個人的にこれをゲームで見た時は心底寒かった。辞書を片手にそれっぽい単語に変換してるだけですよね?としか思えなかった。知性とユーモアが不足していて本当に空々しくて寒かった。

■ストーリー
テーマはこの際どうでもいい。
どうでもいいのだが、それを前面に押し出しすぎではないかと感じる。作者色が強すぎると言ってもいい。プレイ中は意識高い系を気取ってるバカが書いたタチの悪い自己啓発本を読まされてる気分になることすらあった。

作中、ヴェーネが義務感で星を救うという実際星なんてどうでもいいんだろうってスタンスを取っているが、作者自身も星なんてどうでもいいと思ってるだろこれ。テーマを如何に前面に押し出すかに注力しすぎている…と言うか、テーマのために星の存続だのが採用されてる節が見受けられる。もっと言えばゲーム自体もどうでもいいのでは?むしろSSにして発表したほうが良かっただろと思う。

エンデの扱いも今となっては雑というか、星がどうこうというよりも、パーティーメンバーを曇らせるために動いている…テーマ消化のためという印象が拭えない。まぁ、本人がそれを望んでるってスタンスだったけども。それでどいつもこいつもテーマに沿った思考ばかりするものだから、キャラの個性と言うか魅力がどうにもテーマに比べて薄い。舞台装置感がすごいというか。テーマに沿った言動や立ち位置の違いこそがキャラの個性だと言う考えもありだが、セラフィックブルーは一本道すぎるんで舞台装置感が強すぎる。テーマを除いたら話題なんて9割5分無いんじゃないのってくらいに個性薄い。せいぜいジークベルトの見事な内弁慶くらいじゃなかろうか。

そのせいかパーティーメンバーとボス格との会話もなんだかなぁ…思ったり。
ハイディもといレオナとの会話も「もっとお前他に言うことあるんじゃねーのっていうかもっと言ってやれよ」ってのが印象深かった。
それでも一番まともに会話したボスが恐らくレオナだと思えるのがなんとも…

ちなみにレオナの論は論外。あのテキストが全てだとは思うけど、自分にはどうも好意的に受け取れなかった。
結論の説得力だの強度だのの問題ではなく、その結論の始まりが「アイシャがディスピスになって下に捨てられて殺された」絶望からの結論であって、自分が未婚でその結論に達したわけでも、娘を我が手で殺した結論とかいうわけでもない。

だから何を言ったところで所詮は己への慰めだし、端的に言えば八つ当たり。マイナスがないことが重要と言っていたが、ここで言うマイナスはレオナもといクルスク一家であって、他のマイナスなんて考慮もしてないだろう。
功利主義者がどうのこうのとも言っていたが、仮にアイシャが生き返ったら同じ結論に至るかと言ったらそんなことはないだろうし。
結局、レオナが真に言いたいのは「全ては不幸な自分達以下になれ」ってことなんじゃないかね。

まぁ、こう書いてはみたものの、クルスク一家の境遇がセラフィックブルーのテーマの全てではない…と思う。所謂、反出生主義だっけ?それだけじゃないと思うんだよな。ドリスやヴィルジニーの毒親みたいな話もあるわけだし。
多分作者的には、産まれる or 産まれた命の倫理を軸に発生する面倒くさいネタを見せつけたかったんじゃないかなーと思う。

まぁ、だからこそテーマなんぞはどうでもいい。
結局のところ「そうだね、だから?」で終わる話だし。見せつけたかっただけで答えを提示してはいないしな。もしくは答えを持ってないやつが問題を答えと勘違いして声高に騒ぎ立てているだけかもわからんが。
生きてりゃ嫌でも目につく問題のみを突きつけられたところで、興味があるのはその問題の先である答えなわけであって、仮にその答えがクルスク一家って話ならお粗末にも程がある。

■エンディング
ええやん。
と言うか、今までが酷かった。
確かにハッピーエンドではないけれど救いがあるならええやん。
レイクはよく成長したな本当に…途中で死んだ時はどうすんのって思ったわ。
ヴェーネの麻薬云々は問題ない。むしろこれで命を断っていたのなら本当に救いようもなく何も残らない、ただ厭世に終止した物語で終わっていた。もっとも、ただの観測装置として生きていたとも取れるのだが。

正直このエンディングだからこそ今までを許せた感すらある。納得いかない終わりだったらこき下ろす気満々だった。
とは言え、全体的に厭世感を見せつけてやろうというその姿勢は正直鼻につく。
安直な悲哀と矛盾を見せつけて「さあ感動しろ」はあまりにも安易。ただマイナスを集めて見せつけて、内容や方向性がどうあれ心が動けば感動ですよね?って狙いは陳腐としか言えない。加減乗除の内、マイナスばかりでその他を考慮できないバカのシナリオって考えると途端に感動とやらも薄れていく。

まぁ、ショーシャンクの空にとか好きそうだなんてプレイ中には思ってたけど、まさかマジだったと知らされた時は「ああ、はいはい」としか思えなかったし。
言ってみればセラフィックブルーは完成度の高いお化け屋敷ってとこかな。


思いつく限りではこれくらいか。
推敲0という恐ろしい感想記事だが、60時間以上やったし多少はね?

不満点は多いけども、名作であることは間違いない。
嗜好の問題は置いといても割り切りと完成度という意味では間違いなく高い。なんだかんだ言って設定の細かさと伏線回収と構成力とその演出はマジで神がかってる。これに並ぶフリーのツクールRPGを出せと言われてパッと出せる人はそういないんじゃなかろうか。

ただ、人には勧められない。
流石にこのゲームは陰気がすぎる。評判聞いて勝手に探してやってね♡としか言えない。